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今宵、君の全てを
第1章 今宵、君の全てを
顔なじみになったフロントの女性が笑顔で迎えてくれて、ちょっと元気をもらえた。
三台あるエレベーターはこんな時限ってなかなか来ない。
携帯もまだ、繋がらない。

拓真さん……

やっと来た右端の一台に急いで乗り込む。
待ってた人が一斉に乗ったから、十一階までほぼ各駅停車。

早く、早く……
もし部屋にいなかったら、どうしよう……

焦る気持ちと不安な気持ち。両方が胸を渦巻いて気持ちが悪い。
携帯も繋がらないほど怒らせてしまったんだとしたら、向こうに帰っても会ってもらえないかもしれない。
一気に強まった不安に胸がつぶされそう。

やっと十一階に着いて、廊下を急ぐ。

あれ、あの札……

ドアノブにかかる白い札。
『Don't Disturb』の文字に胸がギュッと締め付けられた。

この札が掛かってるって事は、拓真さん中で待っててくれてるんだよね?
電話が繋がらないのも、メールに返信が来ないのももしかしたら、眠ってる?
……こんな時間になっても寝てるって、拓真さん今日来るためにどんだけ無理してくれたんだろう……

ドキドキする胸を左手で押さえ、カードキーを差し込んだ。
カシャンと小さな音がして、そっとドアを押す。
カーテンの引かれてない窓からは夕日が赤く射し込んでいて。
なるべく静かに踏み込んだ部屋の中。ベッドの布団が人の大きさに盛り上がっているのが目に入った。
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