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星の島で恋をした【完結】
第4章 《四》
 再度の気遣いに驚いたが、セルマは言われて、ぐぅと小さくおなかが鳴ったことで思い出した。そういえば城を出る前に朝を軽く食べてきたきりだった。

 男にはお腹の音が聞こえなかったのか、聞こえたけれど無視したのかは分からないが、思いもしない申し出をされた。

「簡単なものしか作れないが、食べられるようなら作ってくるぞ」
「あ……うん」

 それだけの返事をするのがやっとだったのだ。

 最初のとんでもない態度から一転して、男はセルマを気遣っていて、そのことに戸惑った。少し離れていた間になにがあったのだろうか。

 セルマはずっと男に背を向けたままだったのでどういう表情をしていたのか分からなかったが、男は「分かった」とだけ言うと去っていった。



 途端に島全体に張り詰めている透明な空気がセルマを襲ってきたような気がした。

 セルマの視界には、ガゼボ内の地味な色。その先には真っ黒な地面。色はあるのに周りに漂う気配は透明すぎて不安になる。

 この中にいるからそう感じるのかと思い、出てみることにした。白い履き物は思った以上に心地よい。

 ガゼボの敷地から出ると、セルマの茶色い髪を透明な風がさらっていく。それがくすぐったくてセルマは目を細めた。

 日射しの元へ出ると思った以上に暑い。セルマがいた王宮とあまり変わらないはずのその光さえ、ここにいれば透明すぎて不安になる。

 セルマは雲一つない青い空を見上げ、それから海へと視線をおろした。

 黒い地面を拭うように透明な海水が寄せては返していた。波打ち際の水さえ透明でセルマはやはり不安になる。

 ここは星の墓場だという。この黒い地面は星の死骸なのだろうか。それならば今、セルマは死骸の上に立っていることになる。

 そう考えてみると、ここは墓場特有の寂寥とした空気が流れているとも思えた。

 ……いや、そう思うのは感じ取る側の問題だ。

 この島を渡る風も水も透明であるけれど、セルマを排除しようとしてない。それよりも、優しく包み込んでくれている──。

 そう思った途端、少し強い風がセルマの髪をさらっていった。それはまるでそうだと言われたような気がして、微笑んだ。
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