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花咲く夜に
第2章 移転
午前8時。


『ねぇ、戻るよ』

『はいっ??』

貴斗は牛舎の古い建物に付けた掛け時計を指差して、
『朝食の時間。
休憩もしよう』と伝える。

めぐるは額の汗をを腕の手首部分で拭い、
『はいっ』
と返事をした。


玄関前の外水道で手を洗う。
めぐるは見真似をして同じく洗い、
玄関を上がった。


『座敷に座ってて』
貴斗はそう告げて、
台所へ向かった。

『祖母ちゃん、
朝のは終わったよ』
台所に入り祖母に言うと、『はいよ。
ご飯、できとるよ』

何か言いたげな顔をチラリとこちらに向けた。
白髪混じりの髪を1つに縛って割烹着を着た祖母。
目が良くて未だに裸眼である。
72歳。

俺の母親の母である。


まぁ母方の婆さんだ。

貴斗がこの家に来たのは高校生の時で、
以来ずっと2人で住んでいる。


貴斗は隣町の郵便局に就職し、勤務しながら農業は〔副業〕として土日にしていたけれど……

昨年の夏に牛が2頭熱を出して亡くなった。幸い伝染病では無かったが夜中ずっと診ていたため、両立出来ないなと判断して退職願を提出した。
今は土日には郵便局にバイトに行っている。

祖母が母親役みたいなものだ。
『………あの子は友達だから』


『何も言うとらんやろ』

祖母はお盆に2人分の食事――味噌汁・おにぎり・玉子焼き―
をのせて俺に手渡した。


瞬間睨まれた。
祖母は勘は鈍っておらず眼光が鋭い。
『厄介事にはならんやろ。かまへんよ』
そう囁く。

貴斗は威圧感を受けて、
頷き返して盆を持ち座敷へ向かった。

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