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夜は、毎晩やってくる。
第8章 届けて欲しいの 前編

差し出されたそれを恐る恐る受け取り、金の刺繍の入った送り状の署名欄を探して自分の手を彷徨わせると、そっと王子様が手を添えてエスコートしてくれる。

「どうぞこちらに……」

くはあっ……なにそのさりげない優しさ! 撃ち抜かれる!

ああ、これ、名前書き終っちゃったら、この人行っちゃうんだ。
どうしよう、もう少し一緒に過ごしたい。

森都。

たった二文字の我がフルネームをこんなに恨めしく思ったのは初めてだ。
小学生のときなんかは、習字の時間に名前書くのが楽でいいなんて得意だったけど、あたしの馬鹿馬鹿馬鹿! 浅はかなり小学生! 大人になるとこういうことだってあるのだ。

お母さんの旧姓は阿武隈だった。三文字。しかも画数もそれなりに多い。
うわーん、どうして離婚しなかったのお母さん! って、なに考えてんだ私。

そこで無情にも署名タイムはあっさり終了。

うぐぐ、どうしよう。

「お部屋で一緒に包みを開けませんか?」

とか何とか言って引き留められないだろうか。
いや、それおかしいし。

なんで配達の人と小包開けにゃならんのか。
ああ、でも引き留めたい。

引き留めたいけど……。

「それでは御機嫌よう、プリンセス。いつかまた、会える日を」

立ち上がり、爽やかに笑って王子様はマントを翻して外へ。

そんなわけで、未練たらたらに玄関を開け放ち、見送るあたしを尻目に王子様は白馬にヒラリと跨ると、蹄の音も高らかに駆け去って行った。

……道交法とかどーなってんだろう?

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