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夜は、毎晩やってくる。
第8章 届けて欲しいの 前編


   ※   ※   ※


「ダハハハハハー! びっくりしたっしゃ、喜ぶと思っぺさぃ!」

その日の夜。
受話器の向こうでいつもの如く馬鹿笑いをする照男。

「遠洋から戻ったばい、ニョボジが豊漁での。おんめの姫さにも送っちゃーれんゆって、お父ちゃんさ言うたばい、そんならただ送ってもつまらんし、なんぞ変ちょごた送りっ方ないがなーゆぅて探したらめっかとやんや。スマホは便利やし、ええの、魚群探知もできるぞなしっちゃ」

ニョボジはインド紅マグロの幼名で、地元ではみんな朝晩食べるぐらい当たり前の魚だけれど、他の地方では知られていないみたい。赤味がほやみたいに柔らかくてとても美味な魚だ。

東京の大学に入ってしばらくした頃、「ニョボジの煮つけが食べたい」と言って、友達に「なにそれ?」と宇宙人でも見るような目で見られたときのことを思い出す。

ニョボジはあたしの田舎者としての十字架なのだ。
だいたい名前からして田舎くさい。

そんなものをよくもあの垢ぬけたイケメンに運ばせたな!
と、照男を叱ってやりたかったけれども、なにしろ彼に悪意はまったくないのだ。

それを怒るほどあたしは恩知らずな女ではない。
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