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口琴
第13章 お義父様との縄遊び
「パパ…何で『ごめんなさい』してるの?悪いことしたの?」

「………」

敬介は言葉なく項垂れたまま。

「おじちゃん?パパ『ごめんなさい』してるから、『いいよ』してあげて?
雨いっぱい…。パパ濡れちゃうよ?あず、ジュエルぺットの傘持ってるの。貸してあげよっか?」

子犬のような瞳で敬介を見て、小首を傾げる梓。

敬介の肩は悔恨に震え、逃げ出した蕾と、そしてこの鬼畜中條を心底呪った。そもそもの原因が自分にあることなど棚の上にあげたまま。

北川に顎で合図する中條。

北川は軽く会釈して、梓を連れ出そうとしたその時。

「ひぃっ!うわぁ~っ!」

突然、北川がすっとんきょうな声を上げた。

見ると、北川の右足に梨絵が必死でしがみついていた。

髪を振り乱し、敬介に殴られた青アザだらけの顔を歪ませる梨絵。怒りとも哀しみとも言えぬものを宿した目。中條は慄然とするものを感じたが、その姿に母親の情念を垣間見た気もした。

「っ!放しなさいっ!こらっ!」

北川が何度振りほどこうとしても、梨絵は容易に放れない。

「奥さん凄いね…まだそんな力が?…」

中條が、梨絵の髪の毛をひっ掴んだその時。

「キャァ~!誰か~救急車っ!早くっ!子どもが~!」

歩道から女性の悲鳴が轟く。

敬介が素早く立ち上がり歩道に駆け出した。

通りすがりの品の良さそうな老女が一人、横たわる蕾の側で慌てふためいていた。

「こいつっ!どこへ逃げてやがったんだ!お前のせいで梓がっ!」

気を失った蕾を乱暴に引き起こす敬介。

「あなた、この子の父親?そんな乱暴なっ!早く救急…」

「うっせぇ!ばばぁは引っ込んでろ!」

敬介は老女の言葉の途中で、罵声を浴びせた。

「まぁっ!何てこと!」

老眼鏡の奥の目が大きく見開き、呆れ驚いたように敬介を見た。老女は、これ以上関わる相手ではないと悟り、蕾を気にしながらも、その場を立ち去った。

敬介は蕾を抱き上げ、中條の前に駆け寄る。

「社長!蕾が…!蕾が帰ってきましたよ!ハッ…ハハッ…」

予期せぬ好展開に、口角をひきつらせながら笑う敬介。

中條は、眠り姫の如く美しい蕾の顔を覗き込み、ベロリと舌を出して下唇を舐めた。やっと獲物を探し当てた蛇のように…。
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