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口琴
第15章 守るべきもの
「お~い、ひじき~。職員室でセブンが呼んでんぞ?」

親友の陸人が、聖を呼んだ。

「サンキュ」

「お前、何かやらかしたの?」

「なんもねぇよ…」

興味津々に、顔を寄せてくる陸人の肩を押し退け、職員室へ向かった聖。

"セブン"とは聖の担任で、本名は桜木 七雄(さくらぎ ななお)。担当教科は保健体育。常にウルトラマンのようなジャージを着ていて、七人兄弟の末っ子ゆえの名前に、生徒達からの親しみが籠った渾名だ。

「失礼します」

「おぅ、大崎。呼び出してすまん。まあ座れ。…いや~、最近どうよ?」

「…どうって?」

「ん~、なんかあったのか?夏休みの課題も中途半端だったし、最近、授業も上の空。休み明けのテストも、随分落ちてるからさぁ…。優秀なお前がどうしたのかって、他の先生方も心配してたから…。来週から中間だし、来年は受験生だぞ?」

「…別に…」

「…お前なぁ、別にって事はないだろ?エリカ様じゃあるまいし」

「古いよ、先生」

「ハハッ古いな。恋の悩みなら、この桜木に任せとけ?」

「………」

「なんだよ図星かよ?」

「そんなんじゃねぇよ」

「いいか?女ってぇのは追っ掛けちゃ駄目だ。ちょっと突っぱねるくらいのが丁度良い。でもな?あんまり放っておくと機嫌が悪くなる。面倒くせぇんだよ女ってのは…それから…」

「先生、中條グループって知ってる?」

セブンの饒舌な女論は、バッサリと切られた。

「…は?…中條グループ?あの中條か?」

「そう、その社長の家…」

「あぁ、知ってるさ。うちのカミさんがさ、あの希望ヶ丘に家を建てろってうるさいんだけど、あんな高級住宅地、俺みてぇな安月給のペーペー教師には一生無理だって言ってるんだ。おっと、校長聞いてねぇよな?…」

セブンは、首を竦めた。

「…それってどの辺り?」

「なんだ?お前んち、引っ越すのか?」

「いや、そうじゃなくて、ちょっと興味があって…」

「…ちょっと待ってろ、確か…そう遠くなかったと…」

そう言ってセブンは、PCで地図を検索してくれた。

「先生、これプリントアウトして欲しいんだけど」

「あぁ…」

渡された地図を真剣な眼差しで見る聖に、セブンは首を傾げた。

「大崎?…やっぱお前…」

「先生、ありがと」

「おい、ちょっ、待てっ!」

聖はセブンに構わず、職員室を飛び出した。
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