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口琴
第15章 守るべきもの
あの日から聖は、幾度となく河川敷へと足を運んだ。
逢える筈がないのは分かっていたが、ハーモニカを吹いていれば、蕾の拍手が背後から鳴るのではないかと期待した。当然ながら蕾が現れることはなく、やがて聖は河川敷通いも、ハーモニカを吹くことも止めてしまった。
ハーモニカの音色は、彼女との想い出が多すぎて、返って聖を苦しめるようになっていたから…。
聖は、先の見えない真っ暗な海の中にいるようだった。
愛してはいけないと分かってはいるが、消そうとすればするほど思いが募り、愛しさが膨らむ。
何で妹なんだ?…妹を好きになっちゃいけないのか?…
それでも…いい…
逢いたい…
助けたい…
自分には何ができる?…
策が見つからないまま、聖の足は自然に動き出していた。
地図を頼りに向かったのは、希望ヶ丘。
学校の最寄り駅から一駅。そこから希望ヶ丘までは直行のバスに乗った。
「このくらいなら、自転車でもなんとか来れそうだ…」
バスは小高い丘を登り始めると、高級感漂う街並みへと景色が変わっていく。豪邸が建ち並び、道行く人もどことなく垢抜けていて、どの家の車庫にも高級車が数台。気品のある老婦人の散歩させる犬が、さも気高そうに歩く姿が頗る生意気で、小憎たらしく思えた。
「噂には聞いてたけど…すげぇ…」
丘の最頂付近でバスを降りると、先程までの豪邸など足元にも及ばないような屋敷が目に飛び込んできた。
まさに"城"のよう。立派な檜の門柱には、「中條」の表札が。
「ここだ…。なんだ、この家…」
聖の足が竦む。
それでも、ゆっくりと近づき、門の前に立った。
「すげぇ門…。鍵、掛かってるのか?…」
門を押したり引いたりしてみたが、当然ながらびくともしない。
「やっぱな…」
キョロキョロと見渡したが、インターフォンらしきものは見当たらない。
ウィーン…
頭上から不気味な機械音がした。見上げると、最新の防犯カメラが聖を捉え、睨んでいた。
捕まるかも知れないと思った聖は、咄嗟にその場を離れ、屋敷の周りを歩き出した。
どうにか中の様子を探れないか、少しでも蕾の声が聞けないか…。
屋敷を取り囲む石塀は、城の石垣のよう。
「どんだけでかいんだよ、この家…」
十分くらいは、優に歩いたような感覚だ。
中の様子を探れる場所もなければ、物音ひとつ聞こえない。
逢える筈がないのは分かっていたが、ハーモニカを吹いていれば、蕾の拍手が背後から鳴るのではないかと期待した。当然ながら蕾が現れることはなく、やがて聖は河川敷通いも、ハーモニカを吹くことも止めてしまった。
ハーモニカの音色は、彼女との想い出が多すぎて、返って聖を苦しめるようになっていたから…。
聖は、先の見えない真っ暗な海の中にいるようだった。
愛してはいけないと分かってはいるが、消そうとすればするほど思いが募り、愛しさが膨らむ。
何で妹なんだ?…妹を好きになっちゃいけないのか?…
それでも…いい…
逢いたい…
助けたい…
自分には何ができる?…
策が見つからないまま、聖の足は自然に動き出していた。
地図を頼りに向かったのは、希望ヶ丘。
学校の最寄り駅から一駅。そこから希望ヶ丘までは直行のバスに乗った。
「このくらいなら、自転車でもなんとか来れそうだ…」
バスは小高い丘を登り始めると、高級感漂う街並みへと景色が変わっていく。豪邸が建ち並び、道行く人もどことなく垢抜けていて、どの家の車庫にも高級車が数台。気品のある老婦人の散歩させる犬が、さも気高そうに歩く姿が頗る生意気で、小憎たらしく思えた。
「噂には聞いてたけど…すげぇ…」
丘の最頂付近でバスを降りると、先程までの豪邸など足元にも及ばないような屋敷が目に飛び込んできた。
まさに"城"のよう。立派な檜の門柱には、「中條」の表札が。
「ここだ…。なんだ、この家…」
聖の足が竦む。
それでも、ゆっくりと近づき、門の前に立った。
「すげぇ門…。鍵、掛かってるのか?…」
門を押したり引いたりしてみたが、当然ながらびくともしない。
「やっぱな…」
キョロキョロと見渡したが、インターフォンらしきものは見当たらない。
ウィーン…
頭上から不気味な機械音がした。見上げると、最新の防犯カメラが聖を捉え、睨んでいた。
捕まるかも知れないと思った聖は、咄嗟にその場を離れ、屋敷の周りを歩き出した。
どうにか中の様子を探れないか、少しでも蕾の声が聞けないか…。
屋敷を取り囲む石塀は、城の石垣のよう。
「どんだけでかいんだよ、この家…」
十分くらいは、優に歩いたような感覚だ。
中の様子を探れる場所もなければ、物音ひとつ聞こえない。