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口琴
第15章 守るべきもの
名前を呼べば、返事が返ってくるだろうか…

聖は胸いっぱいに息を吸い込んで、叫ぼうとしたその時。

ガチャ…

少し先の小さな鉄扉が開いた。

聖は慌てて、すぐ向かいにある小さな公園の中へと身を隠す。

中から一人のメイドが現れた。

聖は扉が開いた時、中の様子を見れば良かった…と、後になって思ったが、咄嗟の事でそんな余裕などなかった。

メイドは、何やらキョロキョロと辺りを見回し、おかしな挙動をとっている。するとそこへ、背の高い男が表れ、メイドと何やら話している。

男はヨレヨレのチノパンに、黒いジャンパー。秋だと言うのにサンダル履き。目深に黒いニット帽を被っていて、中條家に関わりがありそうな人間には、どう見ても見えなかった。

メイドは俯いて、コクリと頷く。そして、白いエプロンのポケットからカードのような物を取り出し、男に手渡した。

男は辺りを見回してカードを受けとると、すぐにズボンのポケットへ。それから封筒のような物をメイドに手渡した。

メイドも辺りを気にする仕草を見せ、すぐにエプロンのポケットへそれを仕舞う。

男は、何やらメイドに告げると、その場を立ち去った。

メイドは男の後ろ姿を見送ると、唇を噛み締めて少し涙ぐんでいるように見えた。

左目の下の泣き黒子が印象的な美しいメイドは、さっき男に渡したカードと同じカードを出して鉄扉の機械に翳す。すると扉が開き、すぐに中へと姿を消した。

「なんだ…あいつ…」

聖は扉に近づいた。メイドがカードを翳したのは、オートロック。おそらく男に渡したのはカードキーだと聖は思った。

鉄扉はちょうど正門の真逆に位置する。一般的に言うと、裏木戸と言ったところか。使用人達の通用口として使われてる扉だ。

やはり、そこにも防犯カメラがあり、セキュリティは万全だ。

あの人物が何者なのか、気になりはしたが、今の聖は蕾の事でいっぱいだった。

この扉の向こうに蕾がいる。こうしている間も、蕾は苦しんでいる。聖の胸は締め付けられるように痛かった。

「蕾…いつかきっと助けてやるからな」
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