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口琴
第15章 守るべきもの
それは、懐かしいあの旋律…

「ん?ハーモニカ?何も聴こえんが…空耳だろう?ハハッ!」

蕾にだけ届く、優しい音色…

胸の中に熱いものが込み上げてくる。

心臓が破裂しそうなほど高鳴る。

涙が次々と溢れ、顔をグシャグシャにして泣きじゃくりながら、床に散らばる服を拾い集めると、とにかく必死で躰に纏った。

失笑する中條を無視し、力の入らない足をよろめかせながら、アトリエを飛び出そうとした。

「蕾!どこへ行くつもりだ!待ちなさいっ!っうゎっ!」

ガターーンッ!ガッシャーーン!

慌てた中條は、蕾の手を掴んだ瞬間に、イーゼルの脚につまづき、派手に転倒してしまった。

「きゃぁーっ!」

蕾も引っ張られるように転んでしまう。

キャンバスは床に叩き付けられ、画材道具が床に散らばった。

すぐに立ち上がり逃げようとする蕾の足を、倒れたままの中條の手にガッシリと掴まれ、蕾は、また転ばされてしまった。

「やっ!離してっ!」

蕾は、散らばった画材道具の中から、ペインティングナイフを拾い上げ、足を掴んだ中條の手の甲へ、思いっきり突き刺した。

「ギャァァーーー!!」

悲鳴を上げた中條が手を離した隙に、立ち上がりドアを飛び出した。

「くっそっ!っいってっ!」

倒れたままドアを睨み付け、刺された手を擦る中條。
苛立ちを隠せず、目の前に転がる丸筆8号を掴むと、バキッ!とへし折ってしまった。


蕾は夢中で走る。

聖君!

聖君!

聖君!


薄暗い長い廊下を抜け、離れへ続く渡り廊下へ。

渡り廊下の柵を跨いで、庭へと降りた。

裸足だった。

そんな事にも気付かぬ程、無我夢中で走った。

聖君!

聖君!

聖君!

どこ?!

広い庭園の中を…

優しい音色の誘う先へ…

聖君!

聖君!

聖君!

助けて…助けて…!
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