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口琴
第15章 守るべきもの
いつまでも、床に転がってなどいられない。なんとか自力でメタボな巨体を起こし、蕾を追おうとした中條だが…

「うっ!」

刺された手だけでなく、腰と左足にも激痛が走る。どうやら左足を捻挫し、腰を強く打ったらしい。

足を引き摺りながらもドアまで辿り着き、扉を開けた。

すると、視界に飛び込んできたサンダル履きの足…

「…………?」

ゆっくりと、下からなめるように視線を移す。

チノパン…

黒いジャンパー…

手には、黒い大きな革の鞄…

冷笑を浮かべる口許…

目深にニット帽被った背の高い男がそこにいた。

「社長、ご無沙汰しております…」

「お、お前は…佐山…どうしてここに?!」

「蕾は…いえ、お嬢様は社長好みの淫乱娘に成長されたとの事…。何よりです」

「何をしに来た!」

「変態ロリ社長に、折り入ってお話が」

「金なら渡した筈だ。もう、用はない。さっさと出て行け。ここはお前のような輩の来る場所ではない。…そうか、キーを盗んだのはお前か…。一体どうやって手に入れた!」

「そんな事どうでもいい。中條…お前は、人間のクズだ。梓は…梓だけは誰にも渡さねぇ!梓は俺が守る!お前みてぇなクズ人間は、この世からいなくなればいい」

「ハハッ、クズはお前も同じだ。フフッ…。安心しろ。お前の娘など興味はない。蕾以上の娘はいない。ま、箸休めに、お前の娘の処女をツマむのはアリかもな…。ヒッヒッ…」

「てっめぇっっ!」

敬介に胸ぐらを掴まれた中條の巨体が、一瞬宙に浮く。

「んぐっ!!」

その時、激しくドアが開いた。

「お坊っちゃま、ご無事ですか!はあっ、はあっ、不審な男が屋敷にっ!!はぁっ、はぁっ」

北川が、血相を変えて飛び込んで来た。

敬介の手を振りほどいた中條は、いくらか動揺しなからも、北川を怒号した。

「き、北川!こんなドブネズミを屋敷に入れおって!だからさっさとセキュリティを静脈認証に変えろと言っただろう!」

「っ…………!」

敬介に驚いた北川は、言葉を失う。

「カードキーを盗んだのはこいつだ!早く摘まみ出せ!」

「はっ、今すぐっ!おい、誰か!早く!」

「アーッハッハッ!」

突然敬介が放った、あまりにもわざとらしい特撮もののヒーローのような高笑いに、中條と北川は怯んだ。

その隙に、敬介が黒い鞄から取り出したのは、ガソリン携行缶。
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