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口琴
第15章 守るべきもの
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気がつくと、ベッドに寝ていた…。

「蕾…気がついたか?…」

「…聖君?…ほんとに聖君?…」

「良かった。生きてた…。お前、気ぃ失っちゃったから…自転車で運ぶの、すんげぇ大変だったんだぞ?ハハッッ」

聖と逢ったあの瞬間、蕾は糸が切れたように意識を失ってしまったのだ。

「気を?…そうだ…火事…」

「ほんと、酷ぇ火事だったよな…。お前なんともなくて良かった…」

ボサボサの寝癖頭を掻きながら、聖が微笑んだ。

「…………」

聖の笑顔が目の前にある。

これは夢ではない。

胸の奥で凍りついていた塊が、一気に溶け出す。

涙が次々と頬を伝い、止まらなくなった。

聖は黙って蕾の躰を引き寄せ、優しく抱き締めた。

温かい聖の温度と優しい鼓動が、蕾の心に沁みる。

聖の胸に顔を埋めながら、全て吐き出すかのように、大声で泣いた。

どのくらい泣いただろう…

泣き止むまで、聖は黙って抱き締めていてくれた。

横隔膜に癖がついて、しゃくり上げながら、蕾が口を開いた。

「ヒック…ひ、聖君…ヒック…ありが…ヒック…とう…ヒック…」

声が掠れている。

「そんなのいいよ…。もう大丈夫か?」

「うん。…ヒック…ハーモニカが…聴こえたの…。ヒック…私…ヒック…あいたかったの…ヒック…夢みたい…」

聖を見上げ、柔らかく微笑む。

「よし。笑顔になったな」

蕾の頭をクシャクシャと撫でた。

「ここ、聖君ちだよね?私…いてもいいの?パパやママは?」

「大丈夫。二人とも、演奏会のツアーで昨日から地方。また暫く留守なんだ」

「…そう…。学校は?」

「今日は土曜日」

「そうなんだ…。私…何曜日なのかも分かんなくて…」

翡翠の瞳に影が射す。

「…酷い目に遭ったのか?…」

訊くべきか迷った…。

「…怖かった…誰も助けてくれなくて。毎日…毎日…あの人に…ウウッ…」

詰まる声に、聖の胸は締め付けられた。

「…ごめん。もうそれ以上話さなくていいよ。そうだ。メシ食ったら元気になる。俺が作ってやるから、蕾は風呂に入ってこい。さっぱりするぞ?な?」

「うん…」


二人で食卓を囲む。蕾には夢のような時間だった。

「美味しい…」

「ちょっと焦げちゃったけど俺のチャーハン、家族にも評判なんだ」

聖は得意気に言うと、何気なくテレビのスイッチを入れた。
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