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口琴
第15章 守るべきもの
蕾の胸には、不安が渦巻いていた。

あの電話のやり取りなら、幼い蕾にも概ねの察しがつく。

聖に何か起こりそうで、怖かった。

甘えるばかりの自分が情けなくて、辛くて…。

今度は自分が聖を守る番だ…。そんな思いが少しずつ沸き上がってきた。

でも、どうやって?…
蕾は、一つの結論を導き出した。

「聖君…ごめんね?私のこと助けてくれてありがとう」

「…俺、なんもできなかったよ…。助けたくても、ただウロウロするだけで、なにも…」

「ううん、助けてくれたのは聖君だよ?だって、ハーモニカが聴こえなかったら、私、死んでしまってたかも…。
あの人はハーモニカなんて聴こえない、空耳だって言ったけど、私、ちゃんと聴こえたの。
聖君が助けに来てくれたんだって、夢中で飛び出したの。その後だったわ。火事になったのは…」

「…そうだったのか…。…俺…何もできねぇのが悔しくて…ハーモニカ吹くことくらいしか思いつかなくて…。この音が、蕾に届きますようにって祈りながら吹いたんだ。よかった……」

「…ありがとう。聖君…。

…ねえ、私を警察に連れてってくれる?」

「え?!」

「お巡りさんにちゃんと話して、聖君は何もやってないって分かって貰いたいの」

一度は忘れようと心に決めた恋。
ここで終わったとしても、所詮同じだ。そう自分に言い聞かせ、聖をこれ以上捲き込みたくないと、強く思った蕾だった。

「蕾?お前、何言ってるのか分かってんのか?そんなことしたら、お前のことも根掘り葉掘り訊かれて、嫌な目に遭うかも知れないし、お前を売った親達も刑務所行きだぞ?そしてら、施設とかに入れられて、俺達もう二度と会えなくなるかも知んねぇんだぞ?それでもいいのか?俺は絶体嫌だ!お前を離さないって決めたんだ!」

永久に蕾を匿うことなどできないことは、聖も分かってはいたが、少しでもそばにいたい。だから、叫ばずにはいられなかった。

聖の剣幕と熱い思いに、蕾の心が揺らぐ。

「でも…それじゃ、聖君が…」

「大丈夫。俺は何もしてもねぇ。堂々とそう言える。セブンも…あ、担任の桜木先生も俺のこと信じるって言ってくれたから。な?心配すんな」

「……」

穏やかな口調で諭された蕾だが、黙って俯く翡翠色の瞳の中にあるものは、変わってはいなかった。
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