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口琴
第15章 守るべきもの
俯いて座る聖の前に、森下がハーモニカを置く。

「え?どうして…これが?…」

「あの女の子は誰?お友達?」

「蕾…!蕾が来たんですか?」

「蕾って言うの?あの子。ハーフなのかな?」

「…蕾は?どこに…」

聖が立ち上がって、外へ出ようとした時

「ああ、ちょっと待ちなさい。まだ話が終わっていない」

森下に腕を掴まれた。

「離して!蕾に会わせてっ!」

「大丈夫だ。隣の部屋で待ってるから」

「俺、犯人じゃないって分かったんでしょ?関係ないんだよね?ハーモニカ吹いてるの見た人がいたんでしょ?」

「…聞いてたのか…。でも、君かどうかはっきり分からない。そこでだ。ちょうどハーモニカもここにあることだし、昨日、君が吹いていたと言う曲を、ここで吹いてみてくれないか?」

「………」

「ん?吹けないのか?」

あの老婦人が口ずさんだメロディーと一致するのか?…それとも…。

森下は、老婦人の証言と少年の供述が、ほぼ一致していたことで、この少年が限りなく"白"に近いとは思ったが、本当にハーモニカが吹けてこそだとも思った。

そしてあの少女…。まだ何かある…。

森下の脳裏には、奇妙な予感が渦巻いていた。

聖は興奮をぐっと押さえ、ハーモニカを手に取ると、静かに目を閉じて深く息を吸った。

沈黙に時が止まる。

聖の唇が、銀の金属の上を滑らかに滑り出した。

その音色の美しさに、森下も部下も、誰もが息を呑む。

曲はやがて、あの老婦人の口ずさんだサビヘ。

同じ曲だ…。

森下がそう思った時

バタンッ!

突然ドアが開き、蕾が聖の元に走り寄った。

隣の部屋で、ハーモニカの音を聴きつけ、止める婦人警官の手を振り払って駆け込んできたのだ。

「聖君!」

「蕾っ!」

立ち上がった聖の腰にしがみつく。

引き離そうとする刑事達を、森下が止めた。

「…それにしても君のハーモニカ、素晴らしいねぇ。習ってるの?」

「……」

「音楽の才能は、音楽家のご両親の遺伝かな?」

「……」

「随分可愛いお友達だね?わざわざこんな所まで、ハーモニカを持って来るなんて。余程このハーモニカを君に渡したかったようだ。君達は、どう言うお友達かな?」

「…俺の…妹です…」

「え?私、妹なんかじゃ…」

「妹です!」

聖は、蕾の言葉を遮るように、強い口調でキッパリと言い放った。
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