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口琴
第16章 妹の体温
「わぁ!マフラー完成したのね?梓喜ぶよ、きっと。今、友達んちに行ってる。今夜のパーティーで渡すわね?」

「うん。ありがとう」

「私の知り合いが、あの街に住んでるの。今夜はそこで泊めてもらえるように連絡しとく。向こうに着いたらこの番号に電話して?迎えに来てくれるように頼んでおくから」

キミ子は、電話番号のメモを蕾に渡した。

「いいの?」

「工藤さんって言うの。私の親友。いい人だから安心して?それから、着いたら必ずこっちにも電話すること。いいわね?」

「分かった。キミちゃん、ほんとにありがとう」

「…蕾なら大丈夫。誰かさんと違ってしっかりしてるから」

「ちょっと、キミちゃん!それって誰の事?」

瑞希がほっぺたを膨らます。

「さぁ、誰の事かしらねぇ?フフッ」

「もう!キミちゃんなんかキライッ!」

「アハハッッ!」

蕾が誰に逢いに行こうとしているのか、キミ子には分かっていた。
中学生を一人で遠い街へ行かせることに、戸惑いがないと言えば嘘になるが、今、行かせてやらなければ蕾は前に進めない。
笑顔の中に時折覗かせる暗い影が、キミ子には辛かった。

「寒いから暖かくして?」

「うん。行ってきます」


キミちゃん、ありがとう…。


電車に揺られ、車窓を流れる景色を見ていた。
暮れ行く空から、白いものが舞い始める。

突然自分が現れても、彼はまた自分を受け入れてくれるだろうか…。

…それとも…

窓を掠めては溶けるこの儚い雪のように、彼の想いも消えてしまったのだろうか…。


あの街の駅に列車が滑り込む。

下車した人々が去り、プラットホームに一人、ポツリと佇む蕾。

足が動かない…。

大きく息をつく。

例え聖の心が離れていたとしても、自分の気持ちは変わらない。そして心から伝えたい。

『ありがとう』を…

それでいいんだ。

意を決すると、力強く踏み出した。

改札を出る。

駅前はクリスマスムードに包まれ、イルミネーションの煌めく街を行き交う人々は、誰も皆幸せそうだ。

私、こんな街に住んでたんだ…。

ずっと住んでいた筈なのに、知らない街のよう。いかに閉鎖的な生活を送って来たのか、改めて思い知らされ、懐かしさよりも、苦しさに胸が締め付けられた。

真っ暗な空から柔らな粉雪が、頬に、鼻に、唇に舞い降りる。

今、私、聖君と同じ雪を見てる…
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