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口琴
第16章 妹の体温
「こ、ここにバスタオル置いておくからな…」

動揺で声が上擦る。

「…あ、ありがとう…」

チャプン…

すぐそこに聖がいる。
やだ…恥ずかしいよぉ…

蕾は肩を竦めて、縮こまるように鼻まで湯に浸かった。


風呂から上がると、お互い顔を合わせられない。

聖は、耳が真っ赤だ。

私も顔が熱いけど、お風呂上がりだからバレてないよね?…もしかして…バレてるのかな?…

と、ドキドキしながら声をかけた。

「お、お風呂、ありがとう…」

「え?…ああ、そ、それじゃ俺も入ってくる」

「うん」

滑稽なほど、ギクシャクしていた。

聖が風呂に入ると、少し気が緩んでソファに倒れ込んだ蕾。

聖君といて、こんなにドキドキしたの初めてかも…

胸を両手で押さえて、フゥ~ッと大きく深呼吸する。

ふと、テーブルの上に置いたハーモニカケースが目に留まった。

「聖君、喜んでくれて良かった…。またハーモニカ聴きたいな…」

そんなことを思っているうちに、ソファの上で、ウトウトとしていた。

どのくらい経ったのか、フワッとした柔らかい感覚で目が覚めた。

すぐ目の前に、真剣な眼差しの聖の顔が。

驚いて飛び起きると、躰に毛布が掛けられていた。

「風邪引くぞ?」

聖が頭をタオルで拭きながら、気まずそうに立ち上がる。

「…ありがとう…。ご、ごめんね?聖君の寝床取っちゃった」

「いいよ。でもベッドの方が温かいから。二階で寝ろ」

「うん…。ね、聖君…」

「ん?」

「ハーモニカ、聴きたいな」

「え?今から?」

「うん。あ、でももう遅いから、近所迷惑だね?」

「俺…あれからずっと吹いてないんだ…」

「どうして?」

「意味ないから…」

背を向ける聖に、蕾は、苦しんだのは自分だけてはなかったのだと、改めて悟った。

「…ごめんね?…」

「だから謝んなって。お前のせいじゃねぇから。よし、久々に吹くか?」

「うわぁ!ほんと?」

「ああ」

「私、ハーモニカ取ってくる。どこにあるの?」

「ああ、俺の部屋のベッドサイド」

「うん!」

蕾は階段を駆け上がり、聖の部屋へ向かった。

しかし、いくら待っても降りて来ない。

不思議に思った聖は、部屋へと向かう。

シェードランプだけが灯る部屋。

蕾は、ハーモニカケースを膝に抱え、じっと見つめたまま、ベッドに腰かけていた。
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