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口琴
第16章 妹の体温
…何してるんだ?…

そう声をかけようとした時

「あっ!それっ…」

蕾がじっと見つめていたのは、あの埃を被った黒いハーモニカケース。
聖が慌てたのは他でもない。ケースの埃に指で書いた文字を蕾に気づかれてしまったから。

平仮名で、それははっきりと書かれていた。

『つぼみ』

「あ…いや、これは…そ、その…違うんだ…。えっと…え?…なんだ?これ…ハハッ…」

もはや言い訳もままならず、最後は笑うしかなかった。

「…聖…君…嬉しい…」

途切れる涙声に、聖の胸がまた大きく震えた。

ドクン…

「…蕾…」

「…私も…ずっと聖君の事、忘れなかった…。もっと早く逢いたかったけど、あの時はまだ小さすぎて…。中学生になったら必ず逢いに行くって決めてたの」

翡翠色の瞳を潤ませて、真っ直ぐに聖を見つめ、静かに語る。

「俺も。忘れようとしたけど、無理だった…。無理矢理自分の気持ちを胸の奥に押し込んで、こいつもケースにしまったままで…。お前が聴いてないなら、吹いても意味ねぇし…。でも…ハーモニカを閉じ込めても、自分の気持ちは閉じ込められなかった…」

聖は俯いて瞼を閉じ、あの日からの三年間を思い返していた。

妹を愛してはいけないと自分に言い聞かせ、やり場のない気持ちを埋めるために、必死に勉強に打ち込んできたのに、結局、忘れるどころか、益々蕾への思いが膨らんでいたことを…。



ギュッ…

温かく柔らかいものが、聖の躰を優しく包む。
見ると、蕾が自分の躰に腕を回し、胸に顔を埋めていた。

「…蕾…」

聖も強く抱き締めた。

蕾の華奢な躰は、強く抱き締めると折れてしまいそうだったが、聖は加減することができないほど高揚していた。


雪に音を奪われた部屋…。
二人の鼓動が、静寂の部屋に響く。

幼い二人は、引き合うように唇を寄せた。

重ねただけては飽き足らず、唇を開いて舌を絡め合う。
蕾の小さな舌は優しく愛撫され、頭の中が白く霞んでいく。

「んっ…」

小さく洩れる蕾の息遣いに、聖の自制心は脆くも崩れ、その忌垣を越えようとしていた。



…妹なんだ…

…でも…もう止められない…

…蕾をもっと…愛したい…





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