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口琴
第17章 口琴
それから二人は、少し遅めの朝食をとった。

「わぁ、美味しそう!聖君上手!」

「まあな。親がしょっちゅう留守がちだから…。これくらい嫌でもできるようになるんだよ…」

複雑な笑みを浮かべて、ボソっと言った。

「ウフフッ!いただきまーす。…ん!おいひぃ!」

美味しそうにスクランブルエッグを口に運ぶ蕾を見ていると、辛い過去があったのが嘘のようだ。

「今日、お母さんの見舞いに行くって言ってたよな?…」

「うん」

「…俺も…行ってもいいかな?…」

頬杖をついて目を伏せ、フォークでベーコンをつっつきながら言った。

「あ、もしかして、心配?…ありがとう。でも、一人で大丈夫だよ?」

「いや、それもあるけど…」

…本当の母親に逢いたい…

とは言えなかった。

「…蕾のお母さんって、どんな人なのか見てみたくて…」

「…そっか…。うん、いいよ。一緒に行こう?」

「いいのか?…」

「もちろん。ウフッ、何かちょっぴり恥ずかしいけど…嬉しい」

蕾はそう言って笑みを咲かせたが、聖はまた、ゆっくりと目を伏せた。

…覚悟してるのか?…俺…

聖は自問していた。

本当の母親に逢った自分が、果たして冷静でいられるのか…。

もしかして母は、十五年も前に別れた息子など忘れてしまって、今更息子が目の前に現れたりしても、迷惑なだけかも知れない…。

蕾と一緒に行くことで、二人の関係も気づかれてしまうだろう。

兄妹の恋を知ったら、母は壊れてしまうかも知れない。

二人の仲を引き裂かれてしまうかも…。

聖は揺れていた。

父と離婚して、自分を捨てた母を憎んではいない。

自分に嘘をつけず、本当の愛を選んで生きた母。

そんな母と自分は似ていると、聖は思っていた。

自分に嘘をつきたくない。

昨夜、妹と禁断の夜を過ごした事も、後悔していない。

聖がしようとしていることは、誰もが咎めるだろう。

浅はかだと言われるのは、百も承知だ。

全ての人を傷つけることは分かっている。

でも…

自分に嘘をつきたくない。

父から真実を聞かされたあの日から、ずっと聖の心に秘めていた思いだった。

もう逢えないと思っていた蕾と再会した今、聖の心は、はっきりと決まった。

伝えよう…

『お母さん、俺は、あなたの娘を愛しています』




二人は電車に乗った。

母のもとへ…
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