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口琴
第17章 口琴
夜のうちに降り積もった雪は、朝には顔を覗かせた太陽に溶け始めていた。

二人を乗せた電車は、南へ。

聖の住む街は、一番の中心街で、ここから先へは乗客も疎らだ。

二人は、四人掛けのボックスシートの窓際に、向い合わせで座った。

周囲に乗客はいない。

蕾は、聖と一緒にいられることが嬉しくて、ちょっとした遠足気分ではしゃぎ、学校のことや瑞希のことを楽し気に喋り続けた。

しかし聖はどこか上の空で、時折、蕾の「ね?そうでしょ?」などと言う言葉尻だけを拾っては、素っ気ない相槌を打っていた。

ぼんやりと、蕾の無邪気な笑顔を見つめる。


蕾は俺を愛してるのか?…

もしかして、ただの友達程度なのか?…

夕べのこと、後悔してるんじゃ…

もしそうなら…俺は…


「聖君…大丈夫?気分、悪くなった?…」

「…いや…」

「…そう…。でね?ママに逢うのは、六年生の秋以来。妹と二人で、キミちゃんに連れてってもらったの。あの時はまだ病状があまり良くなくて、少ししか面会できなかったんだけど…。元気になってて欲しいな…」

「……」

「聖君?…」

「ああ、そうだな…」

「…やっぱ、何か変。私、ちょっとお喋りし過ぎ?」

「いや、そんなことねぇよ。もっと喋って?」

「…そう改まって言われたら…喋れないよ…」

ほんのりピンク色のほっぺたを、プクッと膨らます。

「あ、その顔すんげぇブス」

「もう~!」

「アハハッ!怒った?」

「知らないっ!」

蕾は窓の方へ向いたまま、唇を尖らせていた。

「…なあ…」

聖は真顔で蕾を見た。

「………」

「蕾は、夕べの…その…俺とのこと…後悔してない?…」

蕾はハッとして頬を染め、辺り気にしながら首を竦めた。

「…声、大きい…」

「誰も聞いてねぇし」

「…私…すごく嬉しかった…」

「ほんと?」

「嘘じゃないよ?」

「…俺のこと…そ、その…」

…愛してる?…

…聞くのが怖い…

「愛してる」

翡翠が、濃い色を放つ。

「"愛してる"なんて、台詞染みてて、どこか安っぽく聞こえるし、子どもの私が軽々しく言う言葉じゃないけど、他にこの気持ちに換わる言葉は見つからない」

頬を染め、翡翠は潤んでいた。

「…私ね?あれからずっと、男の人が怖かったの…」

蕾は走り去る景色を見つめながら、自分の過去を語り始めた。
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