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口琴
第17章 口琴
「ママ!…」

手を伸ばす母のそばへ駆け寄った。

「気がついたの?良かった…。ごめんね?私…ママを苦しめてばかり…。私なんか…生まれなかった方が良かったね?…生まれてきて…ごめんなさい…」

「…蕾!」

梨絵は蕾の手を引き寄せ、抱き締めた。

強く、強く。

「何言ってるの!あなたは私の大切な娘!それなのにママ、あなたに辛い思いばかりさせて…ごめんね?ママがもっとしっかりしなきゃいけないのに…ごめんね…ごめんね…」

「…ママ…」

蕾の頬に流れる涙を、優しい母の指が拭った。

蕾に笑顔の光が射し、梨絵もまた、柔らかく微笑んだ。

「ママ…もう体、平気?…」

「大丈夫。もう落ち着いたわ?まだ、時々こんな風になることはあるけど、随分良くなったの」

「あんまり、無理しないでね?…」

「ありがとう。あぁ、早く元気にならなきゃ。ね?」

「うん!」

蕾に笑顔が戻る。

梨絵は、意を決して靴について話そうとした。

「…蕾…この靴なんだけど……」

そこから言葉が続かない。

すると蕾が、靴を大切そうに抱き抱えながら話し始めた。

「…この靴…私を助けてくれた人の靴なの…」

蕾は椅子にゆっくりと座り、これまでのことを全て梨絵に話し始めた。

ハーモニカの懐かしいメロディーに導かれて、聖と出会ったこと、苦しみの中で、聖が心の支えになってくれたこと、一生懸命、自分を助けようとして、聖自身も一緒に苦しんでくれたこと…。


梨絵は黙って目を閉じ、静かに蕾の話を聞いていた。
その目尻には涙が光っていた。

「…でももう…聖君は…私のこと…」

言葉はそこで途切れた。

「…ママ…。人の気持ちって、すぐに変わっちゃうものなの?…」


もしかして聖は、自分との関係を知っていたのだろうか…

だとしたら…

そんな思いが梨絵の頭を過った。

「…そうね…確かにそう言うこともあるかも。でも…その人のことを愛しているからこそ、辛い道を選んで、変わろうとすることもあるかも知れない…」

「…愛しているのに?…分からない…どうして?…」

怪訝そうに首を傾げる蕾を見て、梨絵はベッドからゆっくり下りると、蕾を優しく抱き締めた。


「そうだ、蕾。ママの育てたお花を見てくれない?」

「お花?」

「そう。さあ、行きましょ?」

それから、コートを羽織ると、蕾を連れて部屋を出た。
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