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口琴
第17章 口琴
ナースに付き添われ、屋上へ。

屋上は安全性を考慮したサンルームになっていて、ガラス張りのドーム型をしている。

天気のよい日は、天井部が開け放たれ、爽やかな風を感じることもできるようになっていた。

冬でも暖かく、日当たりの良いこの場所で、季節の花を育てたり、ゆったりとベンチで花を眺めたりして過ごしながら、心のケアを行う。

「ほら、見て?これはママが育てたの」

そう言ってパンジーやらプリムラ、スノードロップなどの花々を嬉しそうに撫でながら見せる。

「ほんと、可愛い。ママすごいね…」

あんなに苦しんでいた母が、必死で自分達のために生きようとしていることが分かり、心から嬉しかった。 

「蕾ちゃん、だっけ?お母さん、さっきのことがあるから、少し心配だけど、顔色も良くなったみたいだし…。ここは蕾ちゃんにお願いしてもいい?もし、何かあればすぐそこにナースコールがあるから。ね?」

「はい」

「それじゃ津川さん、あまり無理しちゃダメよ?」

そう言うと、ナースは二人を残して戻って行った。


「この花も素敵だけど。ママはやっぱりライラックの花が一番好きかな…」

「そうだったね?そう言えば、聖君の家にもライラックが植えられてたわ?」

「…家に…行ったの?…」

「…うん…」

「…ご両親にお会いしたことは?…」

「一度だけあるわ。そうだ。聖君のパパもママも、オーストリアの音楽大学を卒業されたそうよ?ママと私の本当のパパと同じなの。すごい偶然なの。ね?すごいでしょ?」

「…そう…ね…偶然ね…」

そう言うと、梨絵は確信したように虚空を見つめた。

「蕾?…蕾は…その…聖…君のこと、好きなの?」

「うん。大好き。とても…大切なの」

頬を染める蕾を見て、梨絵の中に一つの決意が生まれた。
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