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口琴
第17章 口琴
いつになく神妙な母を怪訝に思いながら、聖は渋々リビングに下りた。

いつもなら晩酌のビールで、頗る上機嫌になっている筈の父だが、今日は腕組をしたまま座っている。

テーブルには、唐揚げとサラダとコンソメスープなどが並んでいた。

「聖、ほら座って。冷めないうちに食べましょ?」

朋香が、さっきとは違う明るい声で言った。

聖が席へつくと、朋香は茶碗にご飯をよそって聖の前に置いた。それから惣一のコップに缶ビールを注ごうとしたが、惣一は手で遮った。

「俺、食わないよ。…何だよ?話って…」

聖が、不機嫌そうな声でそう言うと、惣一は黙って唐揚げを一つ摘まみ、口へ放り込んだ。

それから、浅い溜め息を一つつくと、聖の目を見ずに一通の封筒を取り出した。

「嫌なら食わなくていいよ。…今から話す…」

「惣一さん、食べてからにしましょ?ね?」

朋香が少し動揺したように言う。

「いいよ、今話してよ。何だよ、その手紙」

「…お前に話すべきかどうか迷ったんだが…最近のお前の様子を見て、朋香が話した方がいいんじゃないかって。ま、この手紙を読めば分かる…」

そう言って、聖に手紙を渡した。

既に封が切られた、淡い小花柄の縦書きの封筒。

宛名は『大崎 惣一様・朋香様』と連名で書かれている。

消印は昨年末『12.26』

差出人は……

『津川 梨絵』…

…え?…

ドキッ!

聖の心臓が大きく打った。

「…これは?…」

「…分かるだろ?…お前の…産みの母親だ…」

「…どうして?…」

「…ま、いいから読んでみろ」

聖は、初めて見る母の文字をじっと見つめた。

線の細い美しい文字。

「読んで…いいの?…」

「ああ…」

父、惣一は腕組みをして俯き、母は、テーブルに肘を付いて両手を組み、神にでも祈っているようだ。

封筒の中には数枚の便箋。

封筒の文字と同じ筆跡で、丁寧に綴られていた。

『拝啓 大崎 惣一様、朋香様

突然お便りしましたこと、お許し下さい』

手紙は、このような書き出しから始まっていた…。
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