この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
口琴
第17章 口琴
いつになく神妙な母を怪訝に思いながら、聖は渋々リビングに下りた。
いつもなら晩酌のビールで、頗る上機嫌になっている筈の父だが、今日は腕組をしたまま座っている。
テーブルには、唐揚げとサラダとコンソメスープなどが並んでいた。
「聖、ほら座って。冷めないうちに食べましょ?」
朋香が、さっきとは違う明るい声で言った。
聖が席へつくと、朋香は茶碗にご飯をよそって聖の前に置いた。それから惣一のコップに缶ビールを注ごうとしたが、惣一は手で遮った。
「俺、食わないよ。…何だよ?話って…」
聖が、不機嫌そうな声でそう言うと、惣一は黙って唐揚げを一つ摘まみ、口へ放り込んだ。
それから、浅い溜め息を一つつくと、聖の目を見ずに一通の封筒を取り出した。
「嫌なら食わなくていいよ。…今から話す…」
「惣一さん、食べてからにしましょ?ね?」
朋香が少し動揺したように言う。
「いいよ、今話してよ。何だよ、その手紙」
「…お前に話すべきかどうか迷ったんだが…最近のお前の様子を見て、朋香が話した方がいいんじゃないかって。ま、この手紙を読めば分かる…」
そう言って、聖に手紙を渡した。
既に封が切られた、淡い小花柄の縦書きの封筒。
宛名は『大崎 惣一様・朋香様』と連名で書かれている。
消印は昨年末『12.26』
差出人は……
『津川 梨絵』…
…え?…
ドキッ!
聖の心臓が大きく打った。
「…これは?…」
「…分かるだろ?…お前の…産みの母親だ…」
「…どうして?…」
「…ま、いいから読んでみろ」
聖は、初めて見る母の文字をじっと見つめた。
線の細い美しい文字。
「読んで…いいの?…」
「ああ…」
父、惣一は腕組みをして俯き、母は、テーブルに肘を付いて両手を組み、神にでも祈っているようだ。
封筒の中には数枚の便箋。
封筒の文字と同じ筆跡で、丁寧に綴られていた。
『拝啓 大崎 惣一様、朋香様
突然お便りしましたこと、お許し下さい』
手紙は、このような書き出しから始まっていた…。
いつもなら晩酌のビールで、頗る上機嫌になっている筈の父だが、今日は腕組をしたまま座っている。
テーブルには、唐揚げとサラダとコンソメスープなどが並んでいた。
「聖、ほら座って。冷めないうちに食べましょ?」
朋香が、さっきとは違う明るい声で言った。
聖が席へつくと、朋香は茶碗にご飯をよそって聖の前に置いた。それから惣一のコップに缶ビールを注ごうとしたが、惣一は手で遮った。
「俺、食わないよ。…何だよ?話って…」
聖が、不機嫌そうな声でそう言うと、惣一は黙って唐揚げを一つ摘まみ、口へ放り込んだ。
それから、浅い溜め息を一つつくと、聖の目を見ずに一通の封筒を取り出した。
「嫌なら食わなくていいよ。…今から話す…」
「惣一さん、食べてからにしましょ?ね?」
朋香が少し動揺したように言う。
「いいよ、今話してよ。何だよ、その手紙」
「…お前に話すべきかどうか迷ったんだが…最近のお前の様子を見て、朋香が話した方がいいんじゃないかって。ま、この手紙を読めば分かる…」
そう言って、聖に手紙を渡した。
既に封が切られた、淡い小花柄の縦書きの封筒。
宛名は『大崎 惣一様・朋香様』と連名で書かれている。
消印は昨年末『12.26』
差出人は……
『津川 梨絵』…
…え?…
ドキッ!
聖の心臓が大きく打った。
「…これは?…」
「…分かるだろ?…お前の…産みの母親だ…」
「…どうして?…」
「…ま、いいから読んでみろ」
聖は、初めて見る母の文字をじっと見つめた。
線の細い美しい文字。
「読んで…いいの?…」
「ああ…」
父、惣一は腕組みをして俯き、母は、テーブルに肘を付いて両手を組み、神にでも祈っているようだ。
封筒の中には数枚の便箋。
封筒の文字と同じ筆跡で、丁寧に綴られていた。
『拝啓 大崎 惣一様、朋香様
突然お便りしましたこと、お許し下さい』
手紙は、このような書き出しから始まっていた…。