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口琴
第17章 口琴
聖は、喉がカラカラだった。

五枚にもわたる、梨絵の長い手紙をテーブルの上に置くと、キッチンへ向かった。
水道の水をコップに溢れるほど汲み、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干す。

両親を見ると、なんとも悲壮な表情を浮かべている。

自分と同じ境遇の人間なら、こんな時、感動したり、取り乱したりするものなのだろうか…。
どんなリアクションが正解なのか分からない。

涙の一つでも流して、陳腐な小芝居でもした方がドラマチックなのかも知れないが。

聖は、こんな風に俯瞰視する余裕がある自分に、多少の驚きと嫌悪を抱いていた。

ただ、この異常な喉の渇きが、少なからず動揺している証なのだろうと、まだ救い用のある自分に、どこかホッとしていた。

「…で?」

芝居どころか、口に出た台詞は、たったこの一言。

惣一が、ゆっくり顔を上げる。

「…この手紙は、すぐにでも捨ててしまおうと思ったんだ…。今更、関わりたくないから…。それに、お前とあの子は兄妹だ。恋愛などもっての他。
これ以上関わると、お互いにとって、良いことなど何一つない。
運命の悪戯としか思えないあの子との事は、いつか時が解決してくれるだろうと…。
お前を守るためには、このまま黙っておくのが一番だと思ったんだ…しかし…」

「…じゃぁ…何でこんなもの俺に見せたんだよ!」

聖は、声を荒らげた自分に少し驚いた。

感情的になっていた。

両親に対する、怒りのようなものが沸々と沸き上がり、歯止めが利かなくなって、思わず叫んだ。

「クッソーッー!!」

握っていたコップを力任せにシンクに叩きつけると、ガシャン!と派手な音をたてて砕け散った。

「おまえ!何やってんだ!」

ガタン!!

椅子を倒す勢いで立ち上がった惣一は、聖に掴み掛かりそうな勢いで向っていく。

その時、慌てて朋香が割って入り

「惣一さん!、やめてっ!落ち着いて座って」

怒りで顔を真っ赤にし、肩で息をしていた惣一は朋香に制され、なんとか怒りを沈めると、またテーブルに着いた。

「あのね、聖…。この手紙をあなたに見せるかどうか、私達も随分迷ったの…。でも…聖が彼女に…本当の母親に会いたいなら、私達が止める権利はないんじゃないかって…」

震える声で話始めたのは、朋香だった。
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