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口琴
第17章 口琴
「ご飯もろくに食べないし、笑わないし、すぐに突っかかるし…。ま、そういう年頃だって言ってしまえば、それまでなんだけど…。

でも、そうじゃないでしょ?…それは、聖が一番よく分かっている筈。

あんなに好きだったハーモニカも、あの事件からずっと吹いてないし…。

私達、そんなあなたを見てられなかったの…。

この手紙を貰った時は、私達だって、あり得ないって思ったわ…。
早く忘れたいのに…迷惑だって…。

でもね?…この手紙を私達の勝手な感情で判断して、破り捨てる権利はないんじゃないかって…。

聖にも決める権利がある筈。…だって、梨絵は…あなたの…」

朋香の言葉が、涙で詰まる。

エプロンで涙を押さえると、また話し続けた。

「梨絵のこの手紙は、聖と、あの子…娘さんへの贖罪だって書いてあるわよね?

梨絵は、親として間違いを起こした。でも、彼女は彼女なりに必死で償おうとしている。

梨絵の話しを聞くことで、もしも…もしもよ?聖の心が救われるのなら…そう思ったの…。

もしかして、もっと傷ついてしまうことだってあり得るけど…。

どう?聖。会いたくないなら、無理して会わなくてもいいのよ?」

朋香はもう、泣いてはいなかった。

惣一も、目を閉じて眉間にシワを寄せたまま、じっと黙っている。

すると、割れたコップを睨み付けながら、聖の唇が微かに動いた。

「…会うよ…俺…」

二人は、キッチンに佇む息子を見た。

「え?…」

朋香が聞き返す。

「…会うよ。会って話し聞くよ…。
その…おか…あ、いや…梨絵…さんが、俺と話すことで楽になるのなら、聞いてやるよ…」

ひねくれた言い方だと、聖は自分で思っていた。

朋香には分かっていた。『梨絵さん』と呼んたことも含めて、聖が自分を気遣ってくれているのだと感じ、胸が熱くなった。

朋香の瞳が、また潤む。

「…聖…ほんとにそれでいいの?」

「…ああ…」

惣一も、聖の真剣な表情をじっと見つめた。

「よし、分かった。会う日は、また改めて決めるとしよう」

惣一の言葉に、聖は小さく頷いた。

「さあ、ご飯食べましょ?わぁ、スープ冷めちゃった。温め直すわね?ウフフッ」

朋香が涙をエプロンで拭きながら、微笑んだ。
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