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口琴
第17章 口琴
インターホンの前に立った梨絵は、人差し指を何度か近付けては躊躇い、それでもやっと、緊張の震えを押さえながら、そっとボタンを押した。

ピンポーン…

すぐに手を離し、胸に手を当ててフーッと深呼吸した。

程なくして、女性の応答が聞こえた。

「…はい。大崎でございます…」

朋香だ。

声のトーンは低いが、ハキハキとした口調は、昔のままだ。

「…あ…あの…津川です…。あ、梨絵です。この度は、お忙しいところ、お時間を頂戴しまして…ありがとうございます…」

何とか言えた…。

「あ… はい。いえ…あの…今すぐ開けますね…」

朋香も緊張しているのだと、梨絵は思った。

玄関扉が開き、朋香がこちらへ歩いて来る。

小柄で華奢な体。色白でクリクリとした二重瞼。朋香は、昔の面影を残していた。
お互い、それなりに歳を重ねた中年女性ではあるが、童顔の彼女は、同い年なのに自分より五つは若く見える。
服装も、イマドキの洗練された奥様と言う感じた。

少し引け目を感じながら、梨絵は深々と頭を下げた。

「梨絵…。久し振りね。さあ、入って。主人も待ってたのよ?」

「朋香…。ありがとう。本当に…ありがとう」

「ほら、早く。話は中で。ね?」

「…ええ…」

涙ぐむ梨絵の背中に手を添えて、朋香は家へと案内した。

勝手を知っている家だが、何もかも変わっている。

当たり前か…。

ナチュラルな雰囲気が、朋香らしい…。

家族の靴が並んでいる…。
その中に、大きなスニーカーに目が留まった。

聖…

梨絵の胸がまた震えた。

すると、惣一が玄関に現れた。

「やあ、久し振り。元気だったのか?…」

髪に少し白いものが混ざり始めた惣一を見て、梨絵は少し寂しさを感じた。

「ご、ご無沙汰しております。この度は、私の無理を聞いて頂きまして、ありがとうございます」

梨絵は少し堅い口調で挨拶をすると、また深々とお辞儀をした。

「さあ、上がって」

「はい。では、お邪魔します。あの…これ、お口に合えばいいのですが、皆さんで召し上がって下さい」

そう言って手土産を朋香に渡す。

「…気を使わせてしまったみたいね?…ごめんなさい。ありがとうございます」

朋香は、恐縮して礼を言った。
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