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口琴
第17章 口琴
やがて、階段を降りてきた聖の足音が、俯く梨絵の前で止まる。
梨絵の鼓動はザクザクと音をたて、体中の動脈や静脈が、熱と痛みを伴って疼いた。
中々顔を上げられない。
「梨絵…聖よ?ほら、大きくなったでしょ?…」
朋香の声に、恐る恐る顔を上げて見る。
目の前に立っていたのは、背の高い凛々しい少年。いや、もう青年と言ってもいい。
当然、梨絵の記憶の中の、幼い聖である筈はないが、目元に残る昔の面影が、梨絵の涙腺を崩壊させた。
「…ぅっっ……こんなにっ…大きくなってっ……。っ…許して…っ…。ごめんなさいっ…ごめん…なさいっ…ぅっっ…私…あなたを…あなたをっ……酷い母親…許してっ…ぅ…」
嗚咽しながら絞り出した言葉は、ただただ謝ることしかできず、思いの半分も言えなかった。
「……謝らなくていいですよ。俺、あなたを恨んだり憎んだりしてません…。
俺の親は、ここにいる二人の他にいないんで…。
あなたを恋しいと思ったことなど、一度たりともなかった…。
だから俺は、自分のことを憐れんでなど欲しくもないし、ましてや、謝ってなど欲しくない…」
静かな低い声。惣一によく似ている。
刺々しい言い方だったが、聖の心の奥の優しさを読めない梨絵ではなかった。
「聖…何て言い方…」
朋香は聖を嗜めたが、梨絵は優しく微笑んだ。
「ぅっ…朋香…いいのよ…。聖君…。あなたが…っぅっ…幸せで良かったっ…。惣一さん、朋香、本当にありがとう…っぅっ…」
梨絵は、深々と頭を下げた。
「…あなたは、そんなに自分が可愛いの?…」
地を這うような聖の低い声。
「え?」
刺すような聖の視線と言葉に、梨絵は一瞬怯んだ。
「…あなたは子どもより、自分を守ったんでしょ?…俺を捨てたことなんかどうでもいいけど、蕾を…あんな目に遭わせて…それでも母親のつもり?」
聖は、吐き捨てるように冷たく言い放った。
「聖!やめなさいっ!」
朋香の上擦った声が響く。
「い、いいの…。朋香、本当の…っ…事なんたからっ…。っ…はぁ…はぁっ…っ…はっっ…」
朋香の呼吸が乱れ始める。
過呼吸…。
あの事件の事を思い出す度、梨絵は過呼吸だの自傷行動だの、頻繁に奇妙な発作に見舞われる。
「梨絵!大丈夫?今、お水を!」
梨絵の鼓動はザクザクと音をたて、体中の動脈や静脈が、熱と痛みを伴って疼いた。
中々顔を上げられない。
「梨絵…聖よ?ほら、大きくなったでしょ?…」
朋香の声に、恐る恐る顔を上げて見る。
目の前に立っていたのは、背の高い凛々しい少年。いや、もう青年と言ってもいい。
当然、梨絵の記憶の中の、幼い聖である筈はないが、目元に残る昔の面影が、梨絵の涙腺を崩壊させた。
「…ぅっっ……こんなにっ…大きくなってっ……。っ…許して…っ…。ごめんなさいっ…ごめん…なさいっ…ぅっっ…私…あなたを…あなたをっ……酷い母親…許してっ…ぅ…」
嗚咽しながら絞り出した言葉は、ただただ謝ることしかできず、思いの半分も言えなかった。
「……謝らなくていいですよ。俺、あなたを恨んだり憎んだりしてません…。
俺の親は、ここにいる二人の他にいないんで…。
あなたを恋しいと思ったことなど、一度たりともなかった…。
だから俺は、自分のことを憐れんでなど欲しくもないし、ましてや、謝ってなど欲しくない…」
静かな低い声。惣一によく似ている。
刺々しい言い方だったが、聖の心の奥の優しさを読めない梨絵ではなかった。
「聖…何て言い方…」
朋香は聖を嗜めたが、梨絵は優しく微笑んだ。
「ぅっ…朋香…いいのよ…。聖君…。あなたが…っぅっ…幸せで良かったっ…。惣一さん、朋香、本当にありがとう…っぅっ…」
梨絵は、深々と頭を下げた。
「…あなたは、そんなに自分が可愛いの?…」
地を這うような聖の低い声。
「え?」
刺すような聖の視線と言葉に、梨絵は一瞬怯んだ。
「…あなたは子どもより、自分を守ったんでしょ?…俺を捨てたことなんかどうでもいいけど、蕾を…あんな目に遭わせて…それでも母親のつもり?」
聖は、吐き捨てるように冷たく言い放った。
「聖!やめなさいっ!」
朋香の上擦った声が響く。
「い、いいの…。朋香、本当の…っ…事なんたからっ…。っ…はぁ…はぁっ…っ…はっっ…」
朋香の呼吸が乱れ始める。
過呼吸…。
あの事件の事を思い出す度、梨絵は過呼吸だの自傷行動だの、頻繁に奇妙な発作に見舞われる。
「梨絵!大丈夫?今、お水を!」