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口琴
第17章 口琴
梨絵は時折、ハンカチで鼻や目尻を押さえながら、話し続けた。
「…ダニエルはピアニストをしながら、幼い娘を男手一つで育てていたの。
彼は亡くなった妻と、娘を心から愛していたわ…。
彼を追って、のこのこと、こんな遠くまで来てしまったことを後悔したわ。
私は、彼に何を求めていたのか。
あわよくば、彼と一緒になれるかも…なんて、自分の心のあざとさが、心底恥ずかしくて…。
私は、彼の元を離れ、日本へ帰ろうと思っていたの。
そんな矢先…、そう、その日はまさに帰国する前日だったわ?彼は私に、一緒に働かないかって…。ちょうどその時、彼のマネージャーが辞めてしまって、私にマネージメントをしてくれないかって…。
正直、とても迷った…。
彼と一緒に仕事をしたいのは山々だけど、彼のそばにいたら、確実に辛くなるのは目に見えていたから…。
でも彼は、熱心に私を説得してくれて、私の気持ちもだんだん傾いて…。
結局…私は、彼の音楽事務所で、彼のマネージャーとして働かせて貰うことに。そして、子守りや、彼の身の回りの事なども手伝うようになった。
それだけで、十分幸せだったわ…。
時間を重ねる毎に、私達はまたあの頃のように惹かれ合うように…。
そしてある日、彼は私にジュリアートの母親になってくれないかって言ってくれて…。
私達は結婚した。幸せだったわ…とても…。
でも、その幸せは、永くは続かなかったの。
彼が交通事故で亡くなったのは、娘が二歳の時。
コンサートのリハーサルが深夜まで続き、疲れきっていた彼は、車での帰り道、赤信号を見落として…。
夫を亡くした私は、彼の忘れ筐のジュリアートを連れて日本へ戻り、娘の日本での定住者資格を獲得した。そしてピアノで生計を立てて暮らし始めたの。
『蕾』と言う名前は、日本に戻った時、ミドルネームとして改名したの。蕾の誕生日の四月は、彼の好きだったライラックの蕾がつく頃だったから…。
私の娘になった証を、何かの形で残したくて…」
「…ダニエルはピアニストをしながら、幼い娘を男手一つで育てていたの。
彼は亡くなった妻と、娘を心から愛していたわ…。
彼を追って、のこのこと、こんな遠くまで来てしまったことを後悔したわ。
私は、彼に何を求めていたのか。
あわよくば、彼と一緒になれるかも…なんて、自分の心のあざとさが、心底恥ずかしくて…。
私は、彼の元を離れ、日本へ帰ろうと思っていたの。
そんな矢先…、そう、その日はまさに帰国する前日だったわ?彼は私に、一緒に働かないかって…。ちょうどその時、彼のマネージャーが辞めてしまって、私にマネージメントをしてくれないかって…。
正直、とても迷った…。
彼と一緒に仕事をしたいのは山々だけど、彼のそばにいたら、確実に辛くなるのは目に見えていたから…。
でも彼は、熱心に私を説得してくれて、私の気持ちもだんだん傾いて…。
結局…私は、彼の音楽事務所で、彼のマネージャーとして働かせて貰うことに。そして、子守りや、彼の身の回りの事なども手伝うようになった。
それだけで、十分幸せだったわ…。
時間を重ねる毎に、私達はまたあの頃のように惹かれ合うように…。
そしてある日、彼は私にジュリアートの母親になってくれないかって言ってくれて…。
私達は結婚した。幸せだったわ…とても…。
でも、その幸せは、永くは続かなかったの。
彼が交通事故で亡くなったのは、娘が二歳の時。
コンサートのリハーサルが深夜まで続き、疲れきっていた彼は、車での帰り道、赤信号を見落として…。
夫を亡くした私は、彼の忘れ筐のジュリアートを連れて日本へ戻り、娘の日本での定住者資格を獲得した。そしてピアノで生計を立てて暮らし始めたの。
『蕾』と言う名前は、日本に戻った時、ミドルネームとして改名したの。蕾の誕生日の四月は、彼の好きだったライラックの蕾がつく頃だったから…。
私の娘になった証を、何かの形で残したくて…」