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口琴
第17章 口琴
「ね、惣一さん。思い出して?梨絵に会おうと決めたのは、聖の為よね?聖が以前の聖に戻ってくれたら…そう思ったんじゃない?
聖の気持ちを…大切にしてあげましょう?聖の幸せが、私達の幸せでしょ?」

「…あ、あぁ…そう…だったな……」

二人の言葉に梨絵は、両手で胸を押さえ、ほっとした表情を見せる。

「惣一さん…朋香…。本当にありがとう!」

深々と頭を下げる梨絵の隣に、朋香が腰を下ろす。

「梨絵、ごめんね?…惣一さんも悪気はないの…。ただ心配で、あんな酷いこと…。ごめんなさい…。
ほんと、聖の言う通り。偏見で子どもを傷付ける大人は最低。
子ども達がまた元気になってくれることが、私達親にとって、一番大切なことなのよね?
梨絵、今日は来てくれて、そして話てくれて、本当にありがとう」

朋香が梨絵を抱き締めると、惣一も微笑んで頷いた。

重苦しかった空気が、和らいでいく。

梨絵の優しい笑顔。

聖の胸の奥に、温かい何かが沸き上がる。

俺…この人から産まれたんだ…。


………………………


「…あの…実は今日ここへ、娘…蕾と一緒に…来たの…」

「えっ!?」

聖の胸が大きく鳴った。

「こちらへ伺う前に、『あすなろの家』へ…あ、娘の暮らしている養護施設へ寄って、娘に本当のことを話してきたの。娘は、とても驚いていたけれど…どうしても一緒に行きたいって…。聖君に逢いたいって聞かなくて…。

聖君のハーモニカをもう一度聴きたいって。あの子、随分、あなたのハーモニカに救われたみたい。

聖君…ほんとうに、ありがとう。

でも…逢って頂けるかどうか、こちらへ来て話してみて、聖君の気持ちも聞いてみなければ。そう言い聞かせたんだけど…。
今、私の付き添いの者と一緒に、駅前のカフェにいるの。聖君…もしよかったら、娘に逢って下さる?」

「どこのカフェ?俺が行くよ!」

聖は、勢いよく立ち上がった。

「あ、でも付き添いの人に迎えに来てもらうことになってるの。だからすぐに電話するわ?いい?」

「…あ、じゃぁ…。…分かりました…」

聖は、逸る気持ちを抑え、渋々承知した。

「惣一さん、朋香…いいかしら?…」

「もちろんよ」

「あぁ」

「ありがとう」

目尻にはまた、涙が光っていた。
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