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口琴
第17章 口琴
ピンポーン…

朋香が門へ出る。

翡翠色の瞳の、美しい少女が立っていた。

デニムジャケット、白いシフォンスカート。すっかり中学生らしくなっていた。

「こ、こんにちは。蕾です。あの…その…せ、節は、ありがとうございましたっ!」

少女は、薔薇色に頬を染め、馴れない言葉に詰まりながら、ボブカットの黒髪を揺らして、チョコンと頭を下げた。

「大きくなったわね?さ、入って?」

朋香は、付き添人がいないことに気付き、怪訝そうに訊ねた。

「あら?付き添いの方は?」

梨絵が玄関先に立っていた。

「朋香、いいの。彼女には、もう少し待って貰うように話してあるの。蕾が聖君と少し話せたらそれで。私達すぐ失礼しますから」

聖が玄関へ駆けて来た。

「…蕾…」

「…聖君…」

「…元気…だったのか?」

「…バカ…」

「…え?」

「…元気なわけ…ないじゃん…」

「……?」

「…だって…逢いたくて…逢いたくて…死にそうだったんだもん…」

「…なんだよそれ…。歌の歌詞かよ…ハハッ…」

「…違うっ!ほんとなんだからっ!」

潤んだ翡翠色に、聖の胸がドクン…と震えた。

「…蕾…」

聖は何かを思い立ったように、梨絵の前に立つ。

「俺達これから行きたい所が…。俺が蕾を施設まで送って行くんで、もう少し蕾といさせて下さい!」

梨絵は優しく頷いた。

「ええ。お願いしていい?」

「はいっ!」

朋香は、不安そうな顔をしていた。

「いいよな?母さん、父さん?」

玄関に出てきた惣一は、真剣な聖の顔を見て、諦めたように笑った。

「止めても、聞かないんだろ?お前は…」

「父さん、ありがとう!」

そう言って自分の部屋へ駆け上ったかと思うと、身支度をし、蕾の手を引いて外へ駆け出した。

「ちょっと、出てくる!」

「聖…どこ行くの?…」

心配顔の朋香の肩に、惣一が手を置く。

聖は、庭先のライラックの花を一枝手折ると、自転車の前かごに入れた。

「蕾、行くぞ!」

「うん!…ママ…行ってきます!」

満面の笑みで聖の自転車の荷台に乗り、手を振る蕾。

梨絵も微笑んで手を振った。

「なんだよ…あいつ、マセてやがる」

「なぁに?惣一さん。聖に可愛い彼女ができて、羨ましいんでしょ?」

「そんなんじゃねぇよ!」

「ウフフッ!」

朋香と梨絵は、顔を見合わせて笑った。
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