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口琴
第7章 蠢く幼い指
寝室のドアの前。

心臓が口から出そうだ。

ドアに耳をつけて、中の様子を窺うことにした。

部屋の中は、静かだ。

何も聞こえない…。寝ちゃったのかな…。

そう思ったとき

「ン…アッ…!」

梨絵の微かな声…。

ママ…!

ドアノブに掛けた手が、汗に濡れ…震える…。

心臓の音…

口の中の渇き…

緊張は頂点に達していた。

蕾は息を殺し、音をたてずにそっと細く隙間を開けた。

落ち着いて…落ち着いて…。

そう自分に言い聞かせ、そして策を考えた。

どうすればいいんだろう…。

いきなり部屋に踏み込んでも、すぐにつまみ出されるに違いない。それなら、敬介の隙を見て後ろから踏み込むのが得策か…。十歳の思考で思い付く限りの策を練った。

コンパスごときで、大の男から母を救う事など不可能だが、幼い蕾にはこれが精一杯の策だった。

ママ…待っててね…。きっと助けるから…。

ドアの隙間から、目を凝らして覗く。

ベッドが見えた。

ポケットの上から、コンパスの存在を確めるように、ギュッと握った。

「アァッ…ハァ…ハァ…ンァ~ッ!」

「?!」

ママ…?
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