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口琴
第10章 二人きりの夜
蕾はリビングのソファに一人座り、少し緊張しながら辺りを見回した。

友達と言える友達のいない蕾は、こんな風に、誰かの家に行ったり、逆に家に招いたりすると言う経験がなく、どうしたらいいのか戸惑っていた。

天然木のシンプルな家具で統一され、清潔感と暖かみのある家は、冷えきった自分の家とは真逆で、羨ましかった。

奥にも部屋がある。

いけないと思いながらも気になった。

足音を忍ばせて近づく。

そっとドアを開けた。

そこは、防音が施されたレッスン室だった。

部屋の中央に、グランドピアノが堂々たる風格で佇み、棚にはヴァイオリンケース。チェロがスタンドに立て掛けられ、譜面台も。書棚には、楽譜や音楽書、CDやレコードが沢山並んでいた。

「…凄い…」

「蕾?」

「あ、ご、ごめんなさい。私…勝手に…」

「別にいいよ。中、入る?」

「ううん、いいの。素敵なピアノね?パパのピアノ、思い出しちゃった」

蕾は笑っていたが、翡翠色の瞳は潤んでいた。

「親父はピアニストで、母さんはチェリストなんだ。時々ヴァイオリンも弾いてるけどな」

「素敵ね…。みんな音楽が好きなんだね。羨ましい…うちは、今のパパが音楽が嫌いなの…」

「…ほら、ラーメン作るぞ?来いよ」

「うん…」


清潔なキッチン。

聖は鍋に湯を沸かし始めた。

「インスタントだぜ?いいか?」

「うん。ラーメン、大好き。ありがとう。お野菜入れると美味しいよ?」

「そんなの、めんどくせぇし」

「私…できるよ。お野菜ある?」

「え?…あぁ、なんかあると思うけど…」

「使ってもいい?」

「そりゃ、いいけど…冷蔵庫見てみるよ。…えっと、キャベツと人参、ネギ、あと缶詰のコーン」

「いっぱいあるね」

蕾は梨恵が留守の時、簡単な料理なら自分ですることも多く、手慣れている。

段取りよく料理する蕾に、聖の胸はドキドキと震えた。

「ママがね、女の子は、お野菜食べないと可愛くなれないって言うの」

「もう、十分可愛いじゃん…あ、いや…今のはその…」

「え?ウフフッ変なのっ」

野菜たっぷりの、塩バターラーメンが完成。

「いただきまーす」

「うわっ!ウマッ!」

「うん、美味しい」

聖は、美味しそうに食べる蕾を見つめた。

「なぁ…」

「ん…?」

「何で…あんなことしたんだ?」

「………………」
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