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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第32章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の壱
 伊勢次の今時の若い者には珍しいほどの純朴さを、喜六郎は殊の外気に入っていた。その伊勢次が滞在先の村で亡くなったことさえ、恩義ある喜六郎に話そうとしなかったのだ。別段隠すつもりはなかったのだけれど、初っぱなから話すだけの勇気はどうしても持てなかった。これでもう再びこの店で働くことは無理だろうと、お彩は内心諦めた。
 ところが、お彩の意に反して、喜六郎は予期せぬことを言った。
―お前が何も訊かねえでくれと言うなら、何も訊かねえ。そうだな、あれは確か、もう二年も前のことか、親父さんの許を訪ねたことがあった。突然の話だから、お彩ちゃんはさぞ愕くだろうが、俺はその時、お前によくよくはこの「花がすみ」の跡目を譲りたいと話したんだ。だから、お前を俺の養女によこしてはくれねえかと親父さんに頼みこんだんだよ。
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