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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第32章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の壱
唯一頼りにできるはずの良人市兵衛は、吉原の馴染みの花魁に夢中で、お彩の苦境を少しも理解してくれようとはしなかった。京屋にお彩の居る場所はなかった。
苦い想い出がよぎってゆく。お彩は想いを振り払うように、慌てて首を振った。血の溢れる指先を見つめている中に、ハッと我に返った。ほんの少し切っただけなので、たいしたことはなさそうだ。だが、たとえ物想いに耽っていたとはいえ、こんなことは極めて珍しい。何という根拠もない予想外の出来事に、お彩はふと妙な胸騒ぎを感じた。
苦い想い出がよぎってゆく。お彩は想いを振り払うように、慌てて首を振った。血の溢れる指先を見つめている中に、ハッと我に返った。ほんの少し切っただけなので、たいしたことはなさそうだ。だが、たとえ物想いに耽っていたとはいえ、こんなことは極めて珍しい。何という根拠もない予想外の出来事に、お彩はふと妙な胸騒ぎを感じた。