この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第32章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の壱
「誰かがあの子を連れていったんでしょうか」
今のところ、そうとしか考えられない。去年の秋に生まれたお美杷は生後半年になったばかりだ。むろん、まだ一人歩きどころか、つかまり立ちもできない赤子である。そんな赤ん坊がたった一人きりで勝手に出歩くはずもなし、隣に眠る喜六郎さえ気づかない間に姿が見えなくなったとすれば、これは何者かに連れ去られたと考えるしかなさそうだ。
だとすれば、犯人は喜六郎が薬を飲んで熟睡している隙に忍び込み、お美杷を連れていったのだろう。「花がすみ」に出入りする場所は、表の店の出入り口しかない。つまり、咎人は堂々とまっ昼間に表から侵入して、お美杷を連れて再び同じ場所を通って外に出たことになる。
今のところ、そうとしか考えられない。去年の秋に生まれたお美杷は生後半年になったばかりだ。むろん、まだ一人歩きどころか、つかまり立ちもできない赤子である。そんな赤ん坊がたった一人きりで勝手に出歩くはずもなし、隣に眠る喜六郎さえ気づかない間に姿が見えなくなったとすれば、これは何者かに連れ去られたと考えるしかなさそうだ。
だとすれば、犯人は喜六郎が薬を飲んで熟睡している隙に忍び込み、お美杷を連れていったのだろう。「花がすみ」に出入りする場所は、表の店の出入り口しかない。つまり、咎人は堂々とまっ昼間に表から侵入して、お美杷を連れて再び同じ場所を通って外に出たことになる。