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第32章 第十三話　【花残り月の再会～霞桜～】　其の壱

　お彩のいる板場は奥まっていて、もし咎人が足音を忍ばせて入ってきたのだとしたら、その気配に気づくのは容易ではなかったろう。
　お彩の中に真っ先に浮かんだのは、どうしてという疑問であった。お美杷をかどわかしたからといって、得をする者がいるとは思えない。大店の子女ならともかく、お彩には金も世間的な地位も名誉も何もない。そんな女の子どもをさらったとて、何の見返りがあるー？
　かといって、誰かに恨みを買うといったことも、とんと身に憶えがない。その時、脳裡に一人の男の顔が浮かんだ。