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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第33章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の弐
 ただの町人の女がいきなり時のご老中様のお住まいに押し掛けても、門前で追い返され、気違い扱いされるのが関の山、万が悪ければ、その場で無礼討ちにされたとて文句はいえない。
 ただ、昔からそうであったように、この場所に来て川の流れを見て少し心を落ち着けたかったのだ。が、確かにその唯一安らげる場所が松平様のお屋敷のすぐ手前というのは、お彩にとっても複雑である。
 今、お彩がいる場所には、大きな桜の大樹がひそやかに佇んでいた。薄紅色の花をたわわにつけた枝はしなるほどで、その先が水面に今にも届きそうなほどである。隙間もないほどに重なり合った桜花が頭上にひろがる光景は、まさに花の天蓋を頂いているような心持ちになる。
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