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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第33章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の弐
お彩が深い吐息を洩らしたときのことであった。
散り敷いた花びらの雪を踏みしめる足音が聞こえた。咄嗟のこととて、お彩はピクリと身を震わせ、強ばらせた。夜盗や物盗りの類かもしれないという怖れが身をすくませた。
「―誰?」
お彩は身体中に緊張を漲らせて叫んだ。
だが、静寂がひろがるばかりで、足音の主は何も応えない。勇気を振り絞って振り向いたお彩の眼の前に、予期せぬ人物が立っていた。
刻(とき)が一瞬、止まったような気がした。
いつしか陽は完全に沈み、代わって気まぐれな夜が支配する時間になっていた。菫色に染まった夜の空に満月が昇っている。花の天蓋の上に掛った円い月は蒼ざめて、随分と頼りなげに見えた。
散り敷いた花びらの雪を踏みしめる足音が聞こえた。咄嗟のこととて、お彩はピクリと身を震わせ、強ばらせた。夜盗や物盗りの類かもしれないという怖れが身をすくませた。
「―誰?」
お彩は身体中に緊張を漲らせて叫んだ。
だが、静寂がひろがるばかりで、足音の主は何も応えない。勇気を振り絞って振り向いたお彩の眼の前に、予期せぬ人物が立っていた。
刻(とき)が一瞬、止まったような気がした。
いつしか陽は完全に沈み、代わって気まぐれな夜が支配する時間になっていた。菫色に染まった夜の空に満月が昇っている。花の天蓋の上に掛った円い月は蒼ざめて、随分と頼りなげに見えた。