この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第33章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の弐
ひととおり読み終えた後、市兵衛はお彩に手紙を返してよこす。
「あなたのことだから、もう、お美杷が誘拐されたことも知ってたんでしょう」
お彩が言うと、市兵衛は小さく肩をすくめた。
「河津屋がまさかここまでやるとは流石に私も考えていなかった。今回は完全に後手に回ったな」
市兵衛は、事情が判らぬお彩に事の次第を手短に話して聞かせた。
河津屋仁左衛門は、日本橋に居を構える呉服太物問屋で、京屋とは常に一、二を争う商売敵であった。当代の主仁左衛門は四十八、強引であこぎな商法で他の同業仲間を蹴落として、一代で店の身代を肥やしたと評判のやり手でもある。
「あなたのことだから、もう、お美杷が誘拐されたことも知ってたんでしょう」
お彩が言うと、市兵衛は小さく肩をすくめた。
「河津屋がまさかここまでやるとは流石に私も考えていなかった。今回は完全に後手に回ったな」
市兵衛は、事情が判らぬお彩に事の次第を手短に話して聞かせた。
河津屋仁左衛門は、日本橋に居を構える呉服太物問屋で、京屋とは常に一、二を争う商売敵であった。当代の主仁左衛門は四十八、強引であこぎな商法で他の同業仲間を蹴落として、一代で店の身代を肥やしたと評判のやり手でもある。