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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第33章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の弐
ところが、意に反して、「氷の京屋」と呼ばれるほどの男には、なかなかしがらみが見つからなかった。大抵の男なら、しかも京屋ほどの大店の主、大商人ともなれば、弱みの一つ二つはあるものだが、この市兵衛という男には全く隙がない。だが、色々と調べさせた挙句、漸く格好の獲物が出た。
市兵衛が昨年、世間を騒がせてまで強引に迎えた女房の存在であった。仁左衛門はお彩に眼をつけた。市兵衛がこの二度めの女房にぞっこんなことは明らかだ。が、お彩が新婚まもなく家を出たこと、若い左官と同棲していること、あまつさえ、その深間になった男と手に手を取って江戸から消えたことまで、すべてを調べ上げた。
市兵衛が昨年、世間を騒がせてまで強引に迎えた女房の存在であった。仁左衛門はお彩に眼をつけた。市兵衛がこの二度めの女房にぞっこんなことは明らかだ。が、お彩が新婚まもなく家を出たこと、若い左官と同棲していること、あまつさえ、その深間になった男と手に手を取って江戸から消えたことまで、すべてを調べ上げた。