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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】
 だが、伊勢次のことを思えば、あの男―京屋市兵衛を想うことは許されない。お彩が取り続けた曖昧な態度が結句、伊勢次を死に追いやることになったのだ。
 お彩は江戸の外れ、一膳飯屋の「花がすみ」に通いで奉公している。「花がすみ」の主喜六郎は奉公先の主人としては申し分のない人で、お彩を実の娘のように可愛がってくれる。
 今のお彩は、喜六郎に一人前の板前になるべく厳しい指導を受けている修業中の身だ。いわば、奉公先の主であると共に、今の喜六郎は師匠でもある。
 喜六郎から教えを乞うのは店が比較的空いている時間帯―昼時、夕飯時から夜にかけてを覗いた時間である。が、空いている時間は仲居としての仕事もやらなければならず、今の生活は結構きついものがある。
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