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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】
 かつて仲居として働いていた時分、喜六郎がお彩に声を荒らげたりしたことなぞ一度としてなかった。少々の失敗も大目に見てくれるのが常であったが、料理人として教えを受けるようになって以来、日に幾度となく叱りとばされ、怒声が飛ぶ。師匠としての喜六郎は厳しく手加減は一切なかった。
 それでも、今の暮らしは、お彩にとってはやり甲斐のあるものだ。努力しただけ、それが認められ、温かく厳しく導いてくれる人がいる。お彩はこの小さな飯屋に今度こそ新しい生き甲斐を目標を見い出せるような気がしていた。
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