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第35章 第十四話　【雪待ち月の祈り】

　かつて市兵衛の女房であった頃、お彩は大店のご新造としてふさわしくあろうと努力した。古参の奉公人にも色々と教わろうとしてみたけれど、それは結局無駄な努力に終わった。あまたの奉公人はお彩を色香で主人を誑かした女狐だと冷たい眼で蔑んでいた。お彩は広い店の中で孤立無援の状態であった。そして、唯一頼りにできるはずの良人市兵衛は、お彩に手を差し伸べてくれようとはしなかった。
　お彩の心の奥底では、いまだに別れた良人への恋情が　火のように妖しく燃えている。しかし、二度と市兵衛に逢わないと決めたのは、何も伊勢次の存在だけではない。