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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】
 男の視線の先で、晩秋の風に渋柿色の暖簾が揺れていた。地に「花がすみ」と白地で染め抜かれている。
「はい、喜六郎さんは確かにこの店の旦那さんですけど」
 男は精悍な顔をやや緊張させた面持ちで言った。
「私は安五郎といって、京にいた時分に同じ料亭で働いていました。喜六郎さんの弟弟子(おとうとでし)とでも申しましょうか」
「判りました」
 お彩は急いで中に取って返した。奧の厨房に向かって、声をかける。
「旦那さん。安五郎さんとおっしゃる方がお見えです」
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