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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】
 安五郎が心底申し訳なさそうに言うと、喜六郎が言った。
「良い娘なんだ。今時珍しいくらいに、真正直でよく働く。それに、何より素直だ」
「よほど気に入ってるんですね。まるで、本当の娘さんに対するような物言いだ」
「ああ、養女にしようと考えてるほどだからな」
 喜六郎は真顔で言った。お彩を一人前の板前に育て上げ、ゆくゆくは、この店の跡目を譲ろうと考えている喜六郎である。が、安五郎はといえば、どうやら、先刻の養女云々の台詞は冗談だと思ったらしく、笑っている。
 喜六郎は、それについては別段、我が身の胸の内を語るつもりはなかったし、また、今のところ語る必要もないだろうと判断した。
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