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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―
 それでも、お絹は再び立ち直ってからは、二度と泣き言も繰り言も口にしなかった。母がいかほど二番目の子の誕生を待ち侘びていたかを、お彩は子ども心に感じ取っていた。だが、お絹は、そのような哀しみをまるでなかったかのように、いや、だからこそなのだろうが、それまで以上に働き続けた。昼間は仕立物の内職、夜は夜泣き蕎麦屋の仕事と休む間もなしに働き続け、それが結果として、母の体力を少しずつ弱めていっていたのかもしれない。
 お彩は腰高障子をそろりと開け、家の中に入った。真っ暗な闇が狭い空間を満たしている。手探りで行灯に火を入れ、漸く淡い光が四畳半の室内をうすぼんやりと照らし出した。
 すり切れた畳に倒れ込むように寝転がり、ぼんやりと天井を見上げる。
―心に花を咲かせるんだよ。小さくても良いから、自分だけにしか咲かせることのできない心の花を。
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