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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第36章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の弐
泰助はまだ丁稚時代、陽太と名乗っていた市兵衛とは同じ奉公仲間であった。市兵衛は先代の主人にその人柄と才覚を見込まれ、京屋の若旦那となったのだ。
泰助は、先代の主人の長女お市、つまり市兵衛の女房にほのかな恋慕の想いを抱いていたようだ。それは、お彩が大番頭佐平と泰助のやりとりを耳にしたときに知ったことだ。
思えば、あのときの二人の話を聞いてしまったことから、市兵衛の哀しくも壮絶な過去を知ることになった。あろうことか、市兵衛の前妻お市は市兵衛を振り向かせんがため、手代の清五郎との道ならぬ恋に走ったのだ。 それはともかく、泰助がお彩をひたすら憎悪する裏には、不幸な死を遂げたお市への憐憫があるからだと思っていた。が、今の泰助の表情にも声音にも存外、真摯さがこもっていた。
泰助は、先代の主人の長女お市、つまり市兵衛の女房にほのかな恋慕の想いを抱いていたようだ。それは、お彩が大番頭佐平と泰助のやりとりを耳にしたときに知ったことだ。
思えば、あのときの二人の話を聞いてしまったことから、市兵衛の哀しくも壮絶な過去を知ることになった。あろうことか、市兵衛の前妻お市は市兵衛を振り向かせんがため、手代の清五郎との道ならぬ恋に走ったのだ。 それはともかく、泰助がお彩をひたすら憎悪する裏には、不幸な死を遂げたお市への憐憫があるからだと思っていた。が、今の泰助の表情にも声音にも存外、真摯さがこもっていた。