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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第38章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の四 
 夕刻、お彩は和泉橋のたもとに立っていた。
 夜泣き蕎麦屋を営んでいた母お絹がかつてよく店を出していたという場所だ。
 お彩の佇む位置からは、武家屋敷が連なる閑静な町並みが見渡せる。すぐ前方に見える塀越しに梅の枝が張りだしている大きなお屋敷は老中松平越中守さまのお住まいである。
 そういえば、お美杷が誘拐されたのは、今年の春のことであった。松平さまのお屋敷に出入りする御用商人の座を狙い、河津屋という商人が市兵衛を脅迫するための人質としてお美杷をさらったのである。あのときは幸いにして、お美杷はお彩の手許に無事帰ってきた。
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