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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第38章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の四 
 市兵衛には、あの事件以来、一度も逢うことはなかった。
 花も咲いてはおらぬ桜の樹がぽつんと一本、川岸に立っている。葉は既にかなり散っており、わずかに残った紅い葉が秋の夕風に吹かれているのが侘びしげに見えた。
「やっと決心がついたかな」
 深い声が間近で聞こえ、お彩は現実に引き戻された。
 黄昏の朱(あけ)に染まった地面に、市兵衛の影が落ちている。冷ややかな美貌、端正な面立ちは相変わらずであった。目許、口許―、輪郭と面差しがお美杷に、愕くほど似ている。
 胸が絞られるような想いがした。改めてお美杷は、この男の娘なのだと思い知らされた。
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