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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第38章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の四 
 お彩は唇を強く噛みしめ、市兵衛の背中を見つめていた。早い秋の陽は暮れ、薄墨を時流したような夕闇が足下から忍び寄ろうとしている。まるで長い旅から漸く帰ってきたときのような疲労感がお彩の全身をすっぽりと包み込んでいた。
―本当に、それで良いんだな。
 先刻の市兵衛の台詞がまざまざと耳奥で蘇る。
 お彩は両手で顔を覆った。
 仕方がなかったのだ。これ以上、一体、自分に何ができたというのか。喜六郎には、これまでにもさんざん世話になった。何より、伊勢次を喪い、たった一人になって江戸に舞い戻ったお彩を再び温かく迎えてくれたのだ。そして、今、「花がすみ」は、お彩にとって無くてはならない場所になっている。
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