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第39章 第十五話　【静かなる月】　其の壱

ばならず、正直、今の生活は以前の仲居だけの仕事をしていたときに比べたら、随分ときつい。
　しかし、喜六郎は本気でお彩に向き合ってくれるし、何度も叱り飛ばされるのもお彩をいっぱしの板前に育てるためだと判っているゆえ、辛くはない。
　将棋の駒のようないかつい容貌はけして万人受けするものではないし、口下手でもあるが、喜六郎は無類のお人好しである。今のお彩にとっては、この広い江戸でたった一人頼りにできる父親代わりともいうべき存在であった。